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家守り 〜house lizard〜  【ホラー】

家守り 〜house lizard〜  【ホラー】
  著者 ェゼ

 噂の心霊スポットに出かけた僕と友人達。
 翌日、疲労していた僕は目覚めると同時に金縛りとなる。
 僕の背後に感じる気配は
 更に僕を硬直させた。



構想&制作〜完結
2014.9.16


 ホラー 


 家守り 〜house lizard〜
                       

 もう夕方か。
 僕が一番安らげるせんべい布団。右に体を向けたまま最初に眺めた物はアナログな目覚まし時計だった。万年床ないつもの居場所で目を覚ました1DKアパートの1階の一室。唯一の入口に鍵も掛けず、着けている衣類はトランクスだけ。掛け布団も目を流した先にある畳の上でひっくり返っている。残暑に似合わない綿布団を押し入れに入れた記憶は大学が始まって一週間程度のものだった。

 昨夜は大学の友人達と心霊スポットに出掛けていた。帰りの運転を任された僕は、4人を自宅まで送り、車はそのまま借りて帰路についた。最後に送った友人の智也(ともや)が車を取りに来る予定だ。

 気怠さに任せて起き上がらない僕は台所の奥を見つめる。玄関のすぐ右横にある窓の外側で素通りするヤモリを眺めながら、昨夜の心霊スポットを思い出す。

 智也の提案で侵入した廃墟となった村。元々その村の始まりを誰も知らない村。それは村人がいなくなっても、誰も建物を取り壊す事もない山奥の村。誰も住む理由がない村。それでいて、いつの間にか村人がいなくなった村。村が発見された20年前より、大きく崩れた家もなく、虫に喰われる事もなく、当時の現存のままだった。その村に噂された事、それは発見当時の状態を知る者は、当時の事を語らない事。そして、裸体の女性が歩いているというその後の目撃証言。目撃証言は一度だけで、二度目の確認の噂が聴こえてこない村。僕を含めて幽霊を信じない智也の興味が勝り、0時以降に到着するように出発した。

 その山道は、村が発見されてから道として開けた山道。優しい道ではなかったけれど、迷う事なく繋がる道。不安だったのは車一台で往復する道のりで、灯り一つない山の中で故障に合う事。けれどそれは回想を思い出している自分がいる訳であり、結果的には問題がなかった。

 到着して車のライトが映し出した村の小屋のような家々。脆(もろ)そうにも感じたが、それぞれの家と家との距離は人一人が通過できる程度に密集しており、それが風化や劣化を防いだのではないかと感じた。霊よりも、ヤモリが家々に現れるだけで騒いでいた智也の彼女。叫びながら黒髪につけた青いカチューシャを抑えている。ヤモリは悪い生き物じゃないという僕のうんちくを耳に入れる余裕もない様子だった。狭い通路で、再び智也の彼女の声に驚かされた僕は、足を滑らせた拍子に老朽した玄関の引き戸へ肩から叩きつけてしまった。

 友達の笑い声と共に僕は倒れていた。僕の下敷きとなって砕けた玄関の木製引き戸。右の平の手で体を支えてようやく立ち上がった僕は痛めた右手をさするようにすぐにポケットへ沈めた。怪我したかもしれない転倒に対する笑い声にムッとした僕は、すぐに車へ向かった。負傷した気分の僕に帰りの運転を任せるなんて酷い友達だ。昨夜のそんなせいで僕は疲れている。

 疲労している僕、そんな時はきまって金縛りにあう。けれど、まだ陽があるうちに金縛りにあうのは初めてであり新鮮だ。金縛りを解くのにも慣れている。いつもなら寝る寸前か、夢見心地の時しか縛られた事がなかった。眼球だけ自由に動かし、夕陽に反射する目覚まし時計をまざまざ眺めながら、その新鮮さに抵抗せず固まっている。

 僕は猫と住んでいる。この築40年のアパートは、初めて内見した時から猫が駄目とは言わせない古さと傷みを感じさせた。寝る前に、そのうち猫に起こされないようにと餌を沢山お皿に入れておいた。寝子と言われるだけあって寝ているだろう。そしてそろそろ智也も現れる頃合。その予感は的中して、窓の外に影が横切る。そして躊躇もなく玄関のドアが外に開く。

「おーい! 車返してもらいに……わりぃ、お取り込み中だったみたいだな。あとでまたくるよ!」

 窓の影は最初より早く横切り、智也は去っていく。どうしてだ? お取り込み中って、何のことだろう。もしかして、枕元にあるティッシュの箱とトランクス一枚の僕に何か誤解して入り込めなくなったのか? けれど、そんな事態でも気にして後退するような奴じゃない。お取り込み中って、大抵、異性とスキンシップしている時に邪魔をした気分から吐くセリフじゃないのか? それでなくても彼女がいない事なんて知っているはずなのに。

 そんな時、猫が起き上がる気配がした。細かく「ニャッニャッ」と鳴く時は、遊びの催促だ。猫の目線は時折何を見ているのか気になる。その方向から音がするのか、気配がするのか、とにかく何もないと感じる方向をジッと見つめる。正に目の前にいる猫は立ち止まり、僕と目を合わさず、お尻側のやや高い位置を見ていた。「フ……フー!」と、尻尾が膨らんで毛が逆だっている様子がわかる。明らかな威嚇。何に? 虫程度なら喜んで喰いつくはず。喧嘩を避けるための威嚇。それは何に対して? 争う事もしない猫は、すぐに後ずさり、僕の視界から見えないところに隠れた。金縛りに委ねて倦怠(けんたい)することもやめようと思った矢先、僕は自分自身で体を固めた。それは、ズリ……ズズ……ズリ……と、小さく、細かい摩擦に擦れる音。まるで猫より大きい生き物が、舌で畳を舐めているような音。
 何かいる。
 僕はすぐに飛び起きて振り返りたかった。けれど、バリッ! プチ……バリッ! という小さくも貪(むさぼ)る音に硬直した。それは、舌ではなく犬歯のような尖った部分で無理やり畳を噛み、引き、千切る音。大きい存在。これが人であれば、僕の足の方向に四つん這いとなり、お尻が頭に近く見えるだろう。智也が誤解する存在。猫が威嚇する存在。誰か居るのか!? なにがいるんだ! それに……いつから!? 僕は逃げられるのか!? 更に、ガリ! メキッ! メキッ! バリ!! ボト……という、僕のお尻の方から聴こえる音。そこにあるのは引き出しが中途半端に開いているタンスがある。それをかじって、食べているのか? いや、口に入れて落としたようだ。あ!!

「ハァ……ハァ……」

 息を殺した僕の太ももに、少しの吐息と共にゆっくりと垂れてくるものを感じる。冷たさは無く、弾けるような透明感もない液体。僕はヨダレ以外想像できなかった。僕を……食べようとしている!? 逃げないと! でも、逃げられる相手なのか!? 振り向けない。気配も感じさせない。僕は、眠っている無害な奴だ!! 寝たふりするしかない!! でも! 気配がない畳やタンスをかじる奴が、僕を放っておくか!? ヤバイ!! ヤバイよ!! なんなんだよこいつは!! ポタ……ポタ……。何……してる? 僕の足に滴るもの。さっきより滴りやすく粘着性が薄い液体。血を想像させる。ギリィ……ブチッ! ブチッ! ブチッ! そんな……そんな……何を食べてる!? それに、僕は本当に起きている!? 夢なんじゃ……いや、夢じゃない!! これは夢じゃない!! どうしよう……もう陽が落ちそうだよ。こんな得体もしれない獰猛な生き物と、夜を共にできる!? 死ぬよ! 絶対死ぬ!! 泣き出したい……今、僕は金縛りが解けているのか、自分で固まっているのかわからない。僕は起きてから指先ひとつ動かしてなぃ……あ……僕の背中に置いてある右手が……なにか柔らかい肌? ……触れてしまった。動かせない。苦しい。あ、あ、これは血!? 右手に落ちてくる。流れてくる。ああ……どうしたらいいんだ。目の前の玄関。走れるか? すぐに動けるか? 足が痺れていたら? 開けるなら左手? 振り向かず、一気に閉める? 今食べているものを食べ終わったら……僕の番。食べられて……たまるか!!

「ぅああああああああああああああああああ!!!!」

 なんて玄関まで永いんだ!! 時間が!! 今にも! 今にも! きっとすぐ後ろ!! 後ろ!! 後ろ!! 止まるな!! 左手!! すぐに左手!! 開けろ!! 開けるんだ!! ドアを開けるんだ!!

「おおおおおおおおおおおおお!!」

 閉まった!! 閉まった!! 外に出た!! 閉めた! 閉めたんだ! 生きてる! 僕は生きてる!

「ニャー!! グニャーグギャー!!」

 バキッ!! ギリ……ギリ……ビキッ!! あ……あ……、僕の代わりに……あ、ご、ごめん……。ズリ……ズリリ……ズザザザ!! 玄関にいる! ああああああ!! 逃げなきゃ!! 逃げなきゃ!! 智也! 智也の家! 何が起きている!! いや、今は走るんだ!! トランクス一枚でも構わない!! 今は! 逃れなきゃ!!

 僕は走る。一番距離が近い智也のマンションへ。時折すれ違う人。どんな風に助けを求めて良いかわからない。10分は走っていない程度で智也の住むマンションが見える。

「ハァ……ハァ……ハァ……智也!」

 やっと着いた。智也、ドア……鍵……開いてる!!

「智也!! ……あ、あ、あああああ!!」

「たす……けて……」

 智也が僕を見ている。横になっている智也のすぐ背中には、裸の女。僕から横向き見える裸体。柔らかそうな肌に引き締まっていない体つき。お尻は智也の頭の方に向けられ、前や後ろに動き、乳房が床に付きそうなほど、体をうつむかせている。
 体を僕から見て横を向いているその女が頭を真っ直ぐ上に上げる。黒髪の内側から手櫛のように出てくる指。左腕が異様に長いのかと錯覚した。それは左手で握った右腕。肘(ひじ)までの長さの右腕。丸が描けるように黒く開く口へ、自分の右腕を肘から口に入れる女。夕陽が顔を照らす。光る瞳。それは大きく、黒く、黒だけに占領された瞳。まざまざと見れば、女の髪は、その容貌に似合っていなかった。青いカチューシャと黒髪は、自分の一部でないのか、頭からズレる。その頭に残る朱と、柔らかすぎる締まりのない口元から流れる血は胸の谷間を流れ、下腹部から黒髪がへたる茂みに隠れる。
 余裕をもって大きく開き、口を上に向け、左手で右腕を握り、深く、強く口へ押し込む。その自分の流血を全身に浴びながら、恐怖に動けない智也の体にも降り注ぐ。女を直視していない智也。金縛りのように動こうとしない智也。それは直前の自分の姿。

 智也の歪んだ顔にも、夕陽が照らしている。その表情は、時折影に隠れる。僕から見て智也の左側と背中より奥にある窓。その窓には上から下へうごめく物体。下へ落ちるかと思えば、横に張り付き、全ての窓は、智也の背中にいる女と酷似する存在に占領されている。

 口に右腕を挿したまま、おそらく僕に気づいた女。金縛りにあったように動けない僕。動こうとしない僕。恐怖に、残酷に、狂気に、僕は動けない。女は、口から右手を出したまま、指先で僕の方向を指す。智也の体を這いずり、明らかに方向を僕に定め、床に張り付くように、二本の足と、左腕で、口に右手の指を開かせながら、突然智也の後ろの壁を這った。毛髪を一切感じない裸体は背中を僕に向ける。重力に抵抗なく壁を這い、部屋の角から天井を這う。硬さを感じない裸体。首から上を垂らすように僕に黒い目を合わせた瞬間、僕の真上まで天井を這ってきた。天井を見る僕の目に映るのは女の顔ではなく、咥(くわ)えた右手が骨を感じさせない動きで僕の視界を占領する。視界は女の右手を見たままのはずだった。すでに女は天井ではなく、僕の体を這いずっていた。

 目の前で蠢(うごめ)く指たち。触れるかどうかというほどに近い指たち。僕の体中を舐めるように裸体を密着させる女。女の口から生える指が、とうとう僕の口に侵入する。女の口と僕の口が重なった時、喉で暴れる女の右手により、僕の体の内側の肌をつかむ。女の口が僕の口から離れた時、それは一緒に口から外へ排出された。

     ◆◆◆

 僕は、ここは、どこ……死んだの? 僕は。光。視界は真っ白に見えたが、黒い線が視界の外から占領してきて、光は球となった。揺れる球は笑い声と共に背後の影の輪郭を映し出した。

「あはははははは!! どうしたのぉ?」

 僕は目を見開いた。目の前であざ笑う智也の彼女。懐中電灯を僕に照らしながら、その隣りでつられて笑う智也と2人の友人達。僕は心霊スポットの村で、一軒の家の割れた引き戸をお尻に敷いて座り込んでいる。

「と、智也。あれ……ここ」

「どうしたんだよ!! 頭でも打ったか! アハハハハ!」

 僕はまだ理解していない。僕は確かに、このあと、自宅に帰った記憶があるから。僕は智也の家でアレを見たから。ここは、すでに終わった事だから。
 夢に感じない僕。その僕の右手には、倒れた引き戸と挟んだ何かの感触がある。

「キャアアアアアア!!」

 右手を上げたと同時に、智也の彼女の悲鳴が頭を突いた。目が覚める気分でお尻にしている引き戸に見たその物体は、ヤモリ。僕の右手の圧迫で右腕を無くしたヤモリだった。ヤモリの右腕は、僕の右手に付いていた。
 昔、祖父に聴かされた事を思い出した。ヤモリは家を守るから家守りなんだと。害虫を捕食し、余計な虫が家に付かないようにする必要な存在だと。万一ヤモリが襲われ、自分の尻尾をちぎられても、あとからちぎれた尻尾を食べに戻ると。食べれば不足した栄養は取り戻せる。けれど、もしもその体の一部を、僕が右のポケットに入れて、持って帰ってしまっていたら。
 僕はヤモリの目の前に、ちぎれた右腕をそっと置いた。
 僕は車に向かって歩いた。その車には、5匹のヤモリが目に映った。

「おいおいどうしたんだよ! けど、帰りは運転してもらうからなあ! ハハハ」

 友達全員が僕の背中に懐中電灯をあてる。逆光の中、僕が右手をヤモリに向けると、姿を消した。僕たちには、用が無くなったように。

     ―了―


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投稿日 : 2014/09/17(Wed) 13:38
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